二日目12 月4 日(金)am。「建築実務の現場でBIMがどのように利用され、どのような課題があるか。創造性、生産性向上などBIMがもたらす未来について討議する。(企画 ― 情報連携BIM研究小委員会、設計・生産の情報化小委員会)」とのことで、現在、BIMが実務にどう利用されているか、日本の現状のわかるセッションであった。
- 村松弘治さん(安井建築設計事務所 設計部)
- BIMの活用ー独創的発想で高い品質の建築をつくる
2007年のJIA大会・IPシンポジウムで、安井建築設計事務所でも、会社をあげて、本格的にBIM設計体制に入るということを、風のうわさに聞いていた。大手専業設計事務所での取り組みの現状について注目される。報告では、「環境シュミレーション」「基本設計-実施設計」と大手設計事務所だけあって、オールマイティーに使っている感じである。
環境シュミレーションについては、次の発表にもあるように、大手設計事務所では標準なのかと・・驚く。
「実施設計」での利用の仕方が、まずもって難しく興味あるところであるが、3Dもモデルから、図面の作成はもちろんであるが、「面積表、建具表、仕上表」等のリスト・表関係も抽出しているレベルのようだ。また、私などは、住宅レベルの規模の実験で終わっていつが、大規模庁舎設計での利用であるから、おそれいった。このように大規模なものになると、「面積表、建具表、仕上表」等のリスト・表関係との整合性は、設計実務者ならいままでの苦労は想像がつくのであるが、その整合性の高さを強調されていたように思う。官公庁設計においては、特に重要視されよう。BIM利用にも設計事務所の特徴が現れる。
ただ、利用率を見ると、東京事務所で「計画75%、基本設計50%、実施30%」とのことで・・・、これをどう見る?設計見積・数量調書については、報告されておらずまだな用である。
ちなみに、
『私の場合、BIM利用率「計画100%、基本設計100%、実施100%」・設計見積・数量調書も作成!』建築住宅3D・BIM設計innovation/高橋建築研究所また、大手事務所の課題・重要性として「レギュレーション・スタンダード・スキル」をあげていたのが注目される。組織事務所のあってはBIM利用の標準利用方法の決定と、運用が有用なところであろう。
今後の課題は「意匠・構造・設備の連携」「広く創造的アイディアを導く」「都市環境設計への活用」をあげている。「施工、ファシリティーマネージメントへの展開」もあげているが、リスト・表関係の活用にとどまっている模様で、「コストの展開」も上げているが、その活用については具体的提案はなされていなかった。
- 永瀬修さん(日建設計 設備設計部門環境計画室)
- BIMと環境シュミレーションの現状
永瀬修さんが、設備設計担当であることもあり、シュミレーションの話が中心であった。
私の情報では、日建設計では、グループごとにCAD利用の運用が任されており、利用の程度・運用CADソフトも統一的には利用していない模様である。ただし、グループによってはBIMの先端グループもあるようであるが、今回の報告にはもりこまれていなかった。
中規模事務所の室内換気空調シュミレーションも3Dで行っている様であるから、利用頻度も高いのではないかと思う。シュミレーションも身近なものになったと驚くばかりである。
ただ、建築の3Dモデルがないときは設備で作らなければならないし、建築のBIMモデルがあったとしてもモデル精度が高すぎ、これも3Dモデルの作り直しがあるなど、課題もあるようである。
地域開発用のシュミレーションは、多彩なようで、風速・温度シュミレーション、さらにCO2シュミレーションと多彩で、驚いた。
- 綱川隆司さん(前田建設工業 建築設計部 建築設計グループ 3D・シームレスチームリーダー)
- 設計施工におけるBIM活用の現在と課題
こちらはBentleyの支援も全面的に受け、全社的に利用している。というのは織り込み済みであった。
ただ、発表で自社の高層ビルBIMモデルを実際にPCで動かし、ウォークインスルーでプレゼンテーションしているのには、驚く。こちらは、設計から、実施設計まで、ほぼ全社的な取り組みであろう。
ただ、実際の設計生産性を問われると、基本実施段階での設計生産性が向上したのではなく、BIMデータを利用した施工図段階での設計図生産性の向上で、設計行為全体のバランスを補っているように、説明からは感じ取れた。
また、見積書作成については、言及されておらず、まだ、実施率はまだら模様なのであろうか
それと、使用BIMソフトであるが、Bentley製品を全面使用かと思えばそうでもないようで、autodsk-Rvit、graphisoft-archicadの混在模様?のようだ。
- 伊藤正比呂さん(大成建設 建築本部技術部技術計画部 建築生産システム推進担当)
- 建設現場におけるBIM活用の現状と課題
BIMの活用が現場にまで及んでいるのには驚いた。たとえ手書き図面の時代から設計の図面を理解するのは現場でも一苦労、というのがたとえスーパーゼネコンといおうとも、現場での僕のイメージであるが・・3Dデータをここまで利用しているとは、驚きである。さらに伊藤正比呂さんの話し方では、設計よりむしろ現場の方が積極的な雰囲気で、設計で3D・BIM設計がなくとも、現場にて3Dモデルを作成し、仮設計画・収まりの詳細検討・出来高管理を行っている感じである。たとえ、スーパーゼネコンのモデルケースと割り引いても、やっぱり驚いた。
この10年の大きな物件から遠ざかっているので、やっぱり遅れてるのかな?・・なんて。
でも、逆に考えると、3D・BIMはむしろ現場で威力を発揮するということかもしれない。その理由は、「設計と違い結局細部詳細まで決定する必要があること」「設計教育になじみが薄い現場の担当者・職人は、むしろ立体で見たほうがやっぱり理解しやすく間違いて戻りがないこと」「設計が決まっているので3D・BIMモデル入力が楽なこと」「立体のほうが出来高・工程管理に有効なこと」などがあげれれるとおもいます。・・どうですか?こういう考え方は・・。
アメリカでBIM普及のきっかけとされているのが、米国国立標準技術研究所(
NIST: National Institute of Standards and Technology)による2004年の生産性の低さの指摘と、それに伴う
建設発注者会議(The Construction User's Roundtable (CURT))による政府と・発注者団体への強い働きかけだという。これに
建設発注者会議(The Construction User's Roundtable (CURT))はすでに回答を持っていた。つまり、生産性の向上には、
- BIMを利用した統合化
- フロントローディング
- リスク・成果の共有
- コラボレーション
これにより
- 20%プロジェクトコストを抑制
- 25%早い進捗
- 35%安全性を改善
- 30%生産力を向上
- 多くの品質改善
- 競争優位
だそうである。つまり、プロジェクトの全体に渡り合理化を図るシステムを構築する。そのツールとしてBIMの導入が進められたという。・・なので、BIMの具体的ツールの利用というより、それに伴うプロジェクト組織システムをどうするかという契約形式の話となる。
以上の4つであるとのこと。しかし、このAIA・IPD方式の前に、
ConsensusDOCSが、IPD用の契約書を発表している。
ConsensusDOCSとは、23の建設系関連団体が、公正なリスク配分がなされるような工事契約方式を統一的に作ることを目的とした組織だそうである。
IPD契約書もCPD契約書も内容的には、ほぼ同じのようであるが、・・IPD契約書では、GMP(最大保障価格)のSEP(目的会社方式)いずれか選択?や、CPD契約書では目的原価見積をベンチマークに適合予算設計としている違いがあるとのことである。このような、記述は、たぶん原価の公開性が高い欧米での前提である上での話ではないかと思うのであるが・・いかがであろうか。
まとめに、田部井明さんは、日本の現在のゼネコンの契約方式は「IPD契約もCPD契約」の方法とほぼ実現していると・・・。。
さらに、最後に、よくぞ言った決定的ひとこと、「ゼネコンが施工段階で図面を書き直すのは、設計事務所の図面が、まったく信用ならないからである」と!!そのとおり・・・と。
で、ここからは、私の私見ですが、
しかし、3つ見失っていることがあると思います。
- 欧米では専門工事費・下請け費が比較的オープンであるが、日本のゼネコンの設計施工一括請負方式は、原価の実体が、まったく秘密であること。
- 建設工事の価格実体は、国内の囲われた社会経済での価格であり、本当にこれが生産性の高い価格の実態であるかは不明であること。(ならば、建設業だけが、なぜに裏献金の話が、引きも切らずに出てくるのか。)
- 現在の価格が、高い生産性であったとしても、公正なリスク配分、公正な利益分配がなされているのか?という問題が残る。
このような不透明性があると思うのです。ゼネコンの設計施工一括請負方式は、形式で言えば、先端「IPD契約もCPD契約」どころか、「入札方式 Design-Bit-Build」にも至っていない。 入札方式 Design-Bit-Buildは、専門工事会社と発注者の直接の契約ですよね!!それ以前の契約形態とはいえませんか?
そもそも、欧米と出発点が違うのだと。
ある意味で、田部井明さんの「契約形態」の分析と「ゼネコンが施工段階で図面を書き直すのは、設計事務所の図面が、まったく信用ならないからである」という言葉が、BIMの日本での実体を、最も決定付けている言葉だと思う。
つまり、「プロジェクトの全体に渡り合理化を図るシステムを構築する。そのツールとしてBIMの導入」というのが欧米で普及させようとする推進力である。然るに、日本は、プロジェクトの全体に渡り統括的契約をする「ゼネコンの設計施工一括請負方式」が幅を利かせ、ゼネコン内部の生産性をあげるツールとしての現状のBIMの存在が明確になったといえる。大手設計事務所の導入もあるが、現状では、官公庁物件の契約資料の合理化がその主な目的に見える。「平成21年国土交通省告示第15号」の設計料に到底及ばない設計料は、川上である設計でBIM設計という精度の高い・高度な設計手法により、川下の施工の合理化を促し、プロジェクト全体の効率を上げるという手法を、許さないのが現状である。ゆえに、小規模設計事務所のBIM利用は、CG・レンダリング作成と、多少奇抜な形態を追うツールに甘んじているのである。
これが、このセッションを通じ、私の現在の考えである。
しかし、この状態を、打破せねば!!と言い聞かせる僕がいて。・・前へ!と言い聞かせている僕。